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旅をたどる3

みぞれ降る香港の花屋通りのにおい – 香港 花墟道(Flower Market Road)

水曜どうでしょうの香港編では、"花屋街で花に見とれる" とテロップが出ましたが、記憶が正しければ、そのシーンの放送は数分程度でした。

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水曜どうでしょう 香港大観光旅行第三夜 「夢の花屋街で花に見とれる」

・・・ HTB 北海道テレビ(制作局)

 水曜どうでしょうの香港大観光旅行第三夜では、「夢の花屋街で花に見とれる」というタイトルで、花墟道(Flower Market Road)にある花屋を紹介していた。花屋が並ぶ街の映像は、ほんの1-2分だったような気がする。花屋街と名乗るからには、それなりのものなのだろうけれど。

 地下鉄の太子(Prince Edward)の駅を出ると、香港とは思えないほどの冷え込みだった。吸い込む空気が冷たい。さっきまで雨が降っていたようで、水たまりにちらちらと空が映っている。この冬一番の寒波がきているようだ。1月とはいえ、最近の香港では最低気温が10度以下にほとんどならないと聞いているのに、今の気温は3度だ。さっき見たテレビのニュースは、64年ぶりの寒さだと言っていた。

香港の花屋街

 花墟道は、ネーザンロード(Nathan Road)が左に折れて、長沙湾道(Cheung Sha Wan Road)と名前を変えるあたりにあった。花屋街に向かってふらふら歩いていると、洗衣街(Sai Yee Street)という標識がある。洗濯通りと読めるが、洗濯屋は見当たらない。香港にはこの手の名前の付け方が、ところどころに見られるのだった。青衣島があって、そこの島の人たちが青い服を着ているのかと思いきや、そうではない。馬湾という村があるが、湾の中を馬が立ち泳ぎをしながら、首だけ水面に突き出して行き来しているわけでもない。ただ、科学館道には、りっぱなサイエンス・ミュージアムがある。

花屋街の軒下

 花墟道は、小さな花売り店の集合体だった。ざっとかぞえて50軒はあるだろうか。道の片側にびしっと並んだ店の軒下には、花や苗などがはみ出していて、天井から吊られている花もある。トラックの荷台から、若いお兄さんが花を運び出している。いろいろな花の匂いが混ざって、あまい微妙な感じが鼻に抜ける。旧暦の正月も近いので、お飾り用の花が多く見られた。その親分格は、キンカン(金桔)だろう。金色に近い黄色の丸い実をつけるので、縁起がいいとされている。また、少々風変りな体を見せるツノナス(五代同堂)の黄色い実は、なぜかいつもキリンの頭にしか見えない。赤と紫が合わさったような微妙な色をだしている胡蝶蘭もあった。一鉢で1500円程度だ。しかし、花を買いにきた客は、店をどうやって選ぶのだろう。どの店も大差ない。ある花だけを売っている専門店のような感じもなく、いずれの店も、似たような品ぞろえだ。普通の客は、店員の言うことや値段や好みなどで決めるのだろう。しかし、プロは違う。さっきすれ違った男は、ポケットに両手を入れて歩きながら、それぞれの商品に視線を飛ばしていた。もしかすると、そのスジの仲介業者かもしれない。一見して、花の出来ばえと値段の両方をチェックする。思考をしている風はないから、ほぼ直観で判断しているのだろう。せどりと同じことなのだ。これだけで月に何十万円も稼ぐことができるのだ。そういう職業が成り立つのも、この花街の特徴なのかもしれない。もわっと花の香りが顔にあたってきた。

ある花屋

 妄想はさておき、花墟道の生い立ちを少々調べてきたので確認する。ここにある花屋の集合体は、1957年ごろに形成された。もともとは、少し北にある界隈街(Boundary Street)の花墟公園あたりにあった店が、公園を作るので立ち退き、ここに移ってきたらしい。1950年代の香港の地図では、まだ花墟道はなく、そのあたりは草地になっている。中国人たちは、優雅な生活には花を欠かすことができないらしいので、花屋は早くから香港の街の中にできていった。もともとあった花屋が花墟道に移ってきてから、さらに拡大して香港でも最大級の大きさの花屋街になったのだろう。

臭豆腐

 道に置かれた大量のキンカンの鉢の向こう側にある、蛍光灯にてらされた赤、紫、黄、緑、オレンジ、ピンクなどの色をぼーっと見ていたら、急に雨がバラバラと降りだした。軒下に駆け込んでいる人たちがいる。傘をさすと、雨があたってジャリジャリと音がした。みぞれが混じっている。気がつくと、手が冷たい。暗くなってきたので、ホテルへ戻ろうと地下鉄の駅へ向かった。耳が痛くなってきた。寒いとこうなる。周りの人たちは、ダウンジャケットのフードをかぶっている。滑らないように下を見ながら急ぎ足で交差点を渡ると、なつかしい臭いがしてきた。夏の暑い日にはいた少し湿っている状態の靴下をビニール袋に入れて密封し、さらにそのまま四日間ほど日なたに放置したような臭いだ(想像)。悪臭がひどい時、鼻がまがるとはよく言ったものだ。呼吸をするたびに、臭いが流れ込んでくる。顔を上げると、みぞれ混じりの大粒の雨の向こうに、裸電球に照らされた「臭豆腐」の黄色い看板があった。ああ、やっぱりそうなんだ。そう思ったときには、鼻のにおい細胞に残っていた花の匂いが、靴下の臭いにすっかり置き換わってしまっていた。

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