色

旅をたどる7

牛車水はSVOであるという事実 – シンガポール・チャイナタウン

シンガポールには、チャイナタウンがあります。英語では "China Town" で、中国語では "牛車水" です。英語の表記と中国語の表記とに、まったく関連性が見いだせないような気がしますが...

すき間旅行者のページ

》》

旅をたどる

》》

旅をたどる7

現在でも中国語では地域一帯を 「牛車水」 と呼んでおり、地下鉄のチャイナタウン駅の英語名の下にもそのように表記されている  ・・・田村慶子・本田智津絵『シンガポール謎解き散歩』(中経の文庫)

 シンガポールのチャイナタウンは、おそらく代表的な観光地の一つに間違いありません。シンガポールを紹介しているインターネットのサイトも、本屋で売っている観光ガイドでも、たいていはチャイナタウンを取り上げます。南側の一部の土産物屋街、中国やヒンドゥーのお寺に観光客が集まるようです。

シンガポールのチャイナタウンのホーカーセンター

 しかし、こればかりがチャイナタウンではありません。たとえば、駅から10分ほど歩いたところにある Bukit Pasoh Road には古い建物が残っていて、昔の雰囲気のシンガポールが感じられます。また、土産物屋群の横には Chinatown Complex があって、二階がホーカーセンターになっています。数えてはいませんが、100軒はあるだろう屋台風の食べ物屋が集合していて、その間にはテーブルとイスが固定されています。昼時には、人であふれます。観光客にとって、この場で食事することには、少し無理があるかもしれません。クーラーはきいていないし、地元の人たちが大声を出して会話しているのが、けんかしているようにしか聞こえないし、シンガポールとはいえここでは英語があまり通じないし、テーブルは汚れているし、食器をのせるトレイも汚れているし、床に落ちた食べものを鳥がつついているし、なんとなく薄暗いし。時には、人の食べ残しの皿が放置してある横で、食べなければならないし。しかし、これぞチャイナタウンだという気がします。

シンガポールはチャイナタウンの天福宮

 シンガポールのチャイナタウンは、1828年にラッフルズが決めた区割りで、中国人が住むようにされた地域だそうです。当時の地図を見ると、Telok Ayer Street が海岸線になっていて、そのあたりは、中国人村(Chinese Campong)と書かれています。現在では、Telok Ayer Street から海を望むことはかないませんが、目の前が海だった確かな気配が残っていました。天福宮です。1840年に建てられて、海の神様といわれる媽祖が祭られています。建てられた当時ここは人や物の中継地であって、福建省出身の移民たちが、故郷と移民先を行き来したそうです。天福宮の並びには、福建会館があります。つまり、チャイナタウンは、この天福宮を中心に発展していったのでしょう。

 シンガポールのチャイナタウンは、漢字で牛車水と書きます。地下鉄の駅でも、この漢字が併記されています。いろいろな国にチャイナタウンはありますが、たいていは中華街や唐人街、中国城といった漢字が当てられているようです。なぜシンガポールでは牛車水なのか?

Ann Siang Hill の井戸

 チャイナタウンに40年以上も住んでいる知り合いに、「Ann Siang Hill のふもとに井戸が残っているのを知っているか?」と言われて行ってみました。確かに、Amoy Streetの裏手に残っていました。中をのぞくと、一メートルほど下に水がたまっているのが見えます。ここから水をくんで、牛車に載せて運んでいたのでしょう。道路を行く牛車には子供たちがかけ寄ってきて、桶の中の水を飲んでいたのかもしれません。井戸のそばにある説明書きによると、「牛車」とは牛の車のことで、「水」は水のことだとありました。日本人は漢字を理解するので、すでにわかっていましたけど。さらに、こんなことが書かれていました。「チャイナタウンに住んでいる人たちや、船で寄港した人たちが、天福宮の裏の Ann Siang Hill から水を運んだ。Ann Siang Hill には、たくさんの井戸が掘られていた。しかし、水の汚染が進み、取り壊されてしまった」 なるほど、よくわかりました。

牛車水

 ところで、チャイナタウンの住民であるその知り合いと「牛車水」について話をしていた時に、こんな理解になりました。これは、「牛車」に「水」を積んでいるのではなく、「牛」が「水」を「車」で運んでいるのだと。つまり、「牛」が主語(subject)「車」は「車で運ぶ」という動詞(verb)で、「水」は目的語(object)である。だから「牛車水」を訳すと、「牛が水を車で運ぶ」となる。つまり、「牛車水」は私たちが中学校の一年生の英語の時間に教えてもらった、SVOという第三文型になっているということです。「牛車水」を縦書きにして漢文風にして見ると、「車」と「水」の間にレ点が入るのでしょうか。なるほど、この方が確かに論理的かもしれません。この説明の方が納得できるような気がします。異議を申し立てるすき間がないように思えます。完璧さも感じえますが。さて、この理解は正しいのでしょうか?

》》 旅をたどる


Copyright © 2018 すき間旅行者 All Rights Reserved