旅をたどる10
レパルスベイの神々の一撃 – 香港
香港島の南にあるレパルス・ベイは、海水浴で有名ですが、その横っちょに仏教公園がありました。ただし、仏様だけではなく神様も同居していて、独特な世界観があるように思えました。
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旅をたどる10
観音菩薩に近づいて見ると、首から足元まで垂れ下がった数珠の玉ひとつひとつに佛という文字が書いてあり、佛佛佛佛うるさい。… 宮田珠己『東南アジア四次元日記』(幻冬舎文庫)
香港島の繁華街の銅鑼湾(コーズウェイベイ)からミニバスに乗り、トンネルを抜け島の南側へ出て、浅水灣(レパルスベイ)に着きました。バスを降りれば、蝉がじぃこじぃこと鳴いています。じわっと体に食い込むような鳴き声で、日本の蝉よりも暑苦しさを感じさせます。西日が視界全体をオレンジ色に照らし出す中、ビーチの温度計は32℃を表示していました。湿気が全身にまとわりつくのを感じながら、その仏教公園へと向かいます。
仏教公園の入り口にある年歳門では、少し大きめのこま犬が訪問者ににらみをきかせて、門の屋根の下には京劇でつかうような目のまわりが黒いマスクがかけられていました。公園の中は、鎮海樓と掲げられた建物の周りに、大小さまざまな像が置かれています。鎮海樓の正面に向って左側には観音像が、右側には天后像があって、それぞれ4階建てのビルの高さはありそうです。東南アジア四次元日記に書いてあった「佛」マークを見つけました。観音様のすそのあたりに数珠が見え、その一つひとつに「佛」と書いてあります。さらに、着物にも「佛」が書かれてしました。肩のあたりには、観音様のお顔と同じぐらい大きな「佛」もあります。よし! 指をさして、「うるさい仏様」を確認しました。一方、反対の右側にある天后像には、「福」がたくさん書いてありました。側面と前面に描かれていて、こちらは「福福福福うるさい」状況になっています。しかし、福をうるさいと追いやってしまっては不幸になる恐れがあり、「福福福福うれしい」状況だと、自分の理解を訂正しました。よし!
西王母が鳥に乗っている像があるテラスに向う途中で、韓国から来たと思われる団体を見かけました。わぁわぁ騒いでいます。おや? 像によじ登って、写真を撮っている人がいます。あらま、それはいけませんね。もしかすると、そのお国では、そうやって写真を撮るのが一般的なのかもしれませんが、私はまったく違うだろうと思いました。
西王母がいるテラスの手前に、太鼓橋のような長寿橋がありました。橋のたもとに、「過橋一次延壽三天」と書いてあります。書いてある漢字の風から想像するに、「この橋を一回渡れば、命が3日延びるのです」と書いてあるように思えます。なるほど、だから長寿橋なんですね。えい、えい、えいっと気合を入れながら、ここでは9日ほど寿命を延ばしていただきました。感謝いたします。
橋を渡ると、西王母がありました。東南アジア四次元日記に書いてあるように、確かに鳥の背中に座っています。全体は、黄色、赤青とオレンジとカラフルですね。鳥の頭にはとさかのようなものがあって、尾には、「福壽喜」の三文字がかかれています。西王母は不老不死の力を与える神女だそうです。次に、山羊の像です。西王母の像を見てから、振り返るとそこに居ました。山羊は、全身が白くて、黒いツノを持っています。世の中の繁栄を望んで作られたと書いてあります。長寿というテーマから少し離れていますが、世の中が繁栄すれば、長寿にもなるのでしょう。とにかく人類における壮大なテーマに取り組んでいることは、間違いありません。
公園の散策もだいたい終えたので、鎮海樓の前あたりに座って休憩です。何とはなしにカラフルな像たちを思い出していると、突然ここは仏教公園なのか? という疑問が浮上しました。この公園の最大の像の一つに、「佛佛佛」観音像がありました。仏教の菩薩の一つです。そして、天后像もありました。香港の多くの場所に祭られています。天后は神様だと聞きました。鳥の背中に座っていた西王母は、道教に関係ある女仙のようです。道教では仙人は神的存在だそうです。また、鎮海樓の前の広場に陳列された像の中に、北海之神がありました。この場合、自ら名乗っているように神なのです。人々の繁栄を祈る山羊は、どのような位置づけになるのでしょうか? 神様なのか仏様なのか不明です。どうやら、この空間は仏教にだけ関係あるのではないことがわかってきました。単なる仏教公園ではなく、さまざまな神様もおられます。神社でいただいた御守りを持つときは、一つにするように言われた記憶があります。二つの御守りを持つと、神様同士がけんかして御利益がなくなってしまうと。この公園ではそれこそたくさんの神様たちにより、大喧嘩が勃発する可能性が大きい。
そういえば、宇宙創造のビッグバンは、「神の一撃」から始まったのだと、以前何かの本で読んだことがあります。ここの神々たちの大喧嘩では、一撃どころではなく「多撃」が発生しているのであり、たくさんの一撃によってたくさんの宇宙が作られる。こうなると、おにぎりのご飯粒のように、たくさんの宇宙が固まりになっている様な状況になってもおかしくありません。しかも連続する "一撃" によって宇宙が生まれ続ける。真っ暗な空間のあちらこちらでおにぎりが,ぼわっぼわっと膨らんでゆく。そのようなことを引き起こす巨大なエネルギーが、このリパルスベイに存在しているのです・・・
なんだか収拾がつかなくなったので帰ろうとしたときに、お祈りをしている一人のおばさんに気がつきました。観光客がいなくなった像の前で、正座しておでこを地面につけています。そう言えば、香港のどこのお寺でも、地元の人たちがお祈りをしている場面を見ます。年配の方や若者たちも。そして、こうやって熱心にお参りする人たちがいる限り、神様や仏様は無益な争いをするはずがないのだと理解しました。
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