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旅をたどる12 [NEW]

シンガポールの著名なホーカー・センターを渡り歩く – シンガポール [NEW]

シンガポールのホーカー・センターは,おいしいものを食べさせてくれます。海南鶏飯,排骨肉骨茶,麻辣豆腐… 1肉2菜のぶっかけ飯は,この上ない一皿であることは間違ありません。

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ホーカー・センター [途中略] は香港やマレーシア、シンガポール、リアウ諸島州などで、廉価な飲食店の屋台や店舗を集めた屋外複合施設である。Wikipedia

 少し前のことです。

ぶっかけ飯にのせるおかずの選択肢群。1肉2菜の3種類の場合が多いですが,がっつり食べたい時は2肉2菜になります。

 シンガポールの知り合いに、「ホーカー・センターとフード・センターは、どこが違うのか?」 と問いかけた時、「ホーカーが集まってホーカー・センターになり、そして最近はそれらの集まりが、フード・センターと名乗っているのだ。さらに、フード・コートになると、冷房がきいているから」 と言われました(諸説あります)。そうなんですか,では基本であるホーカー・センターを,この目で確認せねばなりませんでしょう。

  シンガポールには、政府や政府機関が所有しているホーカー・センターがあるようです。調べてみると、104 か所のホーカー・センターがあることが、ネットを検索してわかりました(調査当時)。それで,まずは調査のテーマーを決めましょう。ただ漫然と行くのでは、時間がもったいなし,そもそも 104 か所も回りきらんのです。そこで、政府所有 “最XX” の著名と言っていいホーカー・センターを,まわってみることにしました。仕事が休みのその週末は、湿気が多く陽の光が広範囲に直照射するという、とても動きづらい環境ではありました。

 まず、”最大” です。China Town Complex のそれが、最大のようです。その数 226 店舗。「ここは、もう何回も来ていて、目をつぶっていても、歩けますかね」 と油断していたら、二階のホーカー・センターへ上がるエスカレーターのはじめの一歩で,ググッグと右足を前にもっていかれました。「おっと、気を抜いては最ペケペケを制覇できぬ」 と小声を出し、エスカレーターに身をゆだねながら,短パンをずるっと上げて気を引き締めました。

チャイナタウンのホーカーで気に入っている海南鶏飯の店です。うまし。

 しかし、ここは相変わらずです。活気あり。席取りをしようとするどい目線を,レーダーのアンテナのように広角 270度ほど顔を左右に向けて飛ばしているおばさん。フライパンをガシガシ揺する音。汁がすれすれの麺のどんぶりを持って、すり足でゆっくりと移動するやせたおじさん。「もう早くしなさいよ、ちゃっちゃと」 といった文句の目線を厨房へと発射している、少々高価かもしれない赤いふちのメガネをかけた待ち行列のおばぁさん。席に座り両手をテーブルの上に乗せて、置物のように動かない小柄なおじぃさん。家族の昼食のために,もう一時間はお茶一杯で過ごしているだろう,スマホを左の人差し指でサクサクしているお嫁さん。おっと、あの少女が食べている全体的に赤い麺、ふぅふぅとうまそうです。トレイの残飯を前後左右にパラパラと布巾で拭き飛ばしながら、それらを手早く片付けているお兄さんがいて。地元では trash bird (残飯荒らし鳥、でしょうか) と呼ばれているくちばしだけオレンジ色の黒い小柄な鳥が、すっすと薄暗いセンターの空中を滑空してきます。私は、「いやいや。でしょ、ここ」 と言いながら、その状況を受け止めます。そうです、この規模です。大きいから、こんなにも活気があって、だからぐちゃりとしているんですよ。私は,シンガポールのホーカーの中では,ここが質・量と環境がまったく特上だと理解しています。持ち帰り用のレジ袋を下げたおにいさんが,ぞうりをぺたぺたと鳴らしながら,直結する隣のアパートへと出ていきました。

シンガポール最古のホーカー・センターの説明書き。虫眼鏡で画面を見ていただくと,なんとか説明書きが読めます。

 さて、”最大” の次は ”最古” です。最大ホーカー・センターから歩いて 10 分ほどの距離にある People’s Park Food Centre がそのようです。最大と同じ China Town にあります。ここは 「Food Centre」 と名乗っていますね。センターの入口の横に説明書きがあって、それによると 1923 年にできたようそうです。なるほど、今から 100 年近くも前ですか。最古,こんなにも長い間、衣食住の基本の一つをシンガポールの人々へ提供しているのですね、お疲れさまでございます。さて、中へ入ると、テーブルにはぽつぽつと、数人づつ真っ白なランニング姿のおじさん達が座っていて,たまにガハハハッが混じる会話をしながら食べて… おお? ではなくがっつり飲んでいます。ただいま午前 10 時 15 分。青いポリバケツの氷水に浸した緑色の3-4 本のビール瓶が、どのテーブルの上にもダタッと配置されていて、飲み終わった瓶はコンコンと不規則にテーブルの上に置かれています。日曜日だからなのか、店は半分ほど閉まっていますね。開いている店は、ビール類の販売店と見た目に辛めの炒め物を出す料理店ぐらいです。なるほど、日曜日の昼間は、おじさん達の集合場所、つまりは語り合いの場なのですね。え? これ,毎日ではないですよね? 突然、男女が言い合っているだろう音声が、ホーカーの隅から聞こえてきました。言葉はまったく不明ですが、あの声の調子では間違いなくけんかです。ああ,男の人が劣勢でしょう。女の人ががぁがぁという声の連続する間に、たまに男の人の声がスッと短く弱く聞こえてきます。史上最古のホーカー・センターなので、そういった夫婦だろうけんかは,おそらくかなり昔から途切れなく続いているのだろうと営みだと理解しました。

ここ住宅の一階に最小があります

 そして、”最小” は Kukoh 21 Food Center です。店舗の数は21です。丘の集合住宅に向かうだらだら坂道を上ります。いや、暑い。ホント、汗が。少し進むと、10 階建てぐらいの住宅がコの字になっている部分の真ん中にある駐車場の脇に “最小” がありました。住宅の一階部分が、ホーカー・センターになっています。昼時前なのに、ほとんどが閉店です。今日は、日曜日だからなのでしょう。テーブルにここの住人らしき人たちが、パラパラ程度に座ってます。ビールを飲んでいる人は,まったくいません。遠くから、「ぱいーん,ぱいーん」と,語尾上がりの京劇風の音楽が途切れ途切れに聞こえてきます。天井では大きな扇風機がそろそろと回転していて、テーブル席の人たちにさくっと風を送っています。暑さがいやされ、いい感じですね、これは。ここはガザガザしていないし,けんかもない。 遠い昔の夏休みの午後のような気だるい時間の中に,私の体と心は全体的にふわっとからめとられました。ちょっと前に買ったキンキンに冷たいミネラルウオーターをいただきます。

 さて、残るは “最北” の政府系ホーカー・センターです。政府発信の情報によると、Marsiling Lane Market という所らしいです。ちょっと遠くにありそうで、簡単にたどり着けるわけはないのです、風が吹きすさぶだろう最北の地なのですから。

Yishun

 イーシュン (Yishun) 駅で MRT を降ります。そして、バスに乗り換えなければならず、バスターミナルを求めて地下街を行きます。きれいな店舗が両側にあって、オーチャードの地下街にも似ていますが、店の大きさと人出がいまいちです。いやいや,比べてはいけません。ただ、クーラーがガンガンきいていて、とても心地よい。さて、最果ての地にあるホーカー・センターに向けて、二階建てのバスに乗り込みます。バスは、シュッシュッと勢いのある音を二つ発すると、車体をブルっと動かしてぐっと発車しました。

 最果ての地であれば雪がつきものですが、今は少し強めの雨が降っています。やはり、大自然は、私の最北の旅の前に立ちはだかるのですね。そうですか、負けはしないですから。

 途中、そのホーカー・センターの情報を、スマホで確認します。ええ? 14:00 までの営業とあります。えっと、今は 13:40 です。では、もうじき店じまいですか? ここまで来て、昼めし抜き? 最北の地はこのタイミングで、試練を私に与えているのです。簡単には来れまへんで。目的地のホーカー前のバス停に到着、下車します。あたりにはまったく雪など見えず、最果ての地にあるべき寒々とした雰囲気もなく、北の端のシンボルである強風にあおられた白波の立つ海もありませんね。閉店10分前。

粿条(Kwai Teow) 見た目は…ですが,これがうまい

 さて、内部を視察します。六角形になったホーカー・センターの中心部の空間には、固定されたテーブルが並んでいます。クーラーはありません。人は、まばらですね。おっと、14:00 閉店なので、急いで注文します。その日の昼食の皿は粿条(Kwai Teow)でした。いただきながら、あたりをうかがいます。パラソル状の屋根の下のこのホーカー・センターは,雨が降っているので今日はちょっと薄暗い。ほぼみなさん,飲み物をテーブルに置いて、スマホをさわっています。昼食はとっくに終わりといったところです。おお,あっちの店で若いお姉さんが炒麺を注文しました。少し遅い昼食ですね。きっと,仕事が忙しくこのタイミングになったのでしょう。お疲れさまです。しかし,姉さんと一緒の食事とはうれしいかぎりです。が,五列は離れたテーブルの位置関係で,とても一緒めしではなく,まったくもって残念でありました。

うちの会社のシンガポール事務所の近くのフード・センターにある野菜メニューのぶっかけ飯。これもうまし。昼時はいつも長い列に並びます。

 たった数時間ですが,シンガポールでいくつかのホーカー・センターを歩きました。ここで感じたのは,どこの場所でもホーカー・センターがそれぞれコミュニティの一部になっているのでは? です。Trash bird と食べ物を分け合う,ビールを飲みながら知り合いと出来事を会話する,家族との昼食の席を確保する,家で飯を作るのは面倒だから持ち帰りで… それぞれ状況にあったニーズを見て取れます。そして,それらをほぼ受け止めてくれるのがホーカーなのです。なるほど,シンガポールの休日で酷暑の日中に歩き回ったあと,その晩にホテルでホーカーの買い弁をつまみに冷たいタイガー・ビールをググッとやるのは,シンガポールの文化の一端に触れることになるのでしょうか。しかし,仕事のあがりが遅くなった午後 10 時過ぎのホテル近くのホーカーのおおかたの店は,無常にも明りを落として,センター内はさらに薄暗くなっています。そして,残っているものはみな冷めていて。 加えて,午後 10 時半を超えると酒類の販売ができなくなるシステムのシンガポールは,疲れて心身共に重くなった私に,言い表されぬ残念感を付け加えてくれるのは否定できないのです...

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