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旅からおもう1

バーミンガム空港駅のボス – イギリス バーミンガム

中学の英語で覚えた基本的な単語だから。知っている単語なので。日本でもそのまま日常生活で使っている外来語でしょ。しかし、これらの枠組みをそのまま正直に当てはめようとしても、本場のイギリス英語は、そう簡単に歩み寄ってくれませんでした。

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 少し前のことです。その日は、たくさんのカレッジが集まっているオックスフォードの町へ、電車で行こうと思っていました。泊まっているホテルに近いバーミンガム国際空港駅へ行き、キップ売り場でキップを買おうとした時、ちょっとしたことが起きました。

 「オクスフォード・プリーズ」

 売り場の窓口の中に向かってそう言うと、座っているふとった男の係員が少し遠目でディスプレイを見ながら、「あー、ぼす」と言ったのです。

 ぼす・・・「ん?」。聞き直しました。ふとっちょは、今度は私の方を向き目をキラッとさせながらうなずいて、低い声でまた「ぼす」とだけ言いました。

 意味がわかりません。ここでは、キップを買う人のことをボスと呼ぶのですか?今まで駅の窓口の係員に、ボスと呼ばれたことはありませんでした。ボス... 親分や上司という意味の boss しか、頭の中にうかんでこないのです。しかし、この駅のキップ売り場の係員と客という状況を考えると、親分と子分といった関係ではないことは明白でしょう。どうしたらいいのか・・・

イギリスの電車(少し前)

 ぼす以外に何か言ってくれることを期待して、再び聞き返してみました。「ぼす?」、語尾を上げて言います。 ふとっちょは、こちらが「ぼす」の意味がわからず聞き返しているのではなく、本当に「ぼす」であるのかを確認しているのだと思い、「あー」と言いながら手元のキーボードをパキパキパチとたたき、それからこちらを向いて深くうなずきながら、やっぱり「ぼす」と言いました。顔には、間違いないといった自信が見て取れます。

 とりあえず、「オーケー」と言って、キップ売り場から立ち去りました。

 駅の待合所のベンチに腰かけ、状況を整理してみました。ふとっちょは、「ぼすだけど、それでいいのか?ぼすなのですからね」と訴えていることは確かです。だから、幾度となく「ぼす」という単語を繰り返して、最後は自信満々だったのです。電車に乗ろうとしている人間に、「ぼす」でいいのか?と。「ぼす、ぼす・・・電車、う~ん、ぼす・・・お?」。そして、ついに「ぼす」の意味を理解しました。「バス」なのです。

バーミンガムのボス(少し前)

 あとで調べてみると、その日は電車の線路の工事をしていて、オクスフォードへ行く電車は運休している区間がありました。だから、そこに振替バスを走らせていたのです。つまり、ふとっちょ係員は、「今日は線路の工事でオクスフォード行きの電車は、あいにく運休している区間があって、少し不便になるかもしれないけど、代替えのバスがその区間をきちんと走っている。だから、オクスフォードには電車だけではなく、途中バスに乗り換えてもらうことになるのだけれど、そんな調整でもいいのか?大丈夫か?問題ないか?」というセリフを、「ぼす」という一つの単語で言い切っていたことが、はっきりとわかりました。問題はクリアされた。よかった。

 しかし、バスが「バス」ではないイギリス英語に、中学校の英語の授業で教えてもらった「バス」や、「おお、バスが来たから走らないと間に合わないぜ」という「バス」はいったい何であったのかと、その時は少しイラッとしたけれど、自分の応用力と現場力と適応力の無さを反省するべきだったと、今は思うのです。

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