旅からおもう2
中国の深圳で正しく導かれる – 中華人民共和国深圳市南山区蛇口
中国の香港の対岸の深圳に、蛇口(シューコウ)という町があります。日本では「じゃこう」と発音されていますが、「じゃぐち」とも読めます。では、蛇口(じゃこう)の街中には、たくさんの蛇口(じゃぐち)があるのでしょうか?どうでもいいように思えますが、実際に確かめてみる必要があると感じました。
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旅からおもう2
蛇口(じゃこう)と香港とは隣町のような距離で、フェリーでも行けますが、電車で行くことにしました。香港の中心部からMTRで落馬州へ行き、徒歩で深圳川を越えて、さらに福田口岸から地下鉄に乗りました。電車は新しくきれいで、車内に付いている小型の液晶テレビは、電車には正しく乗りましょう、自動車ではなく電車に乗りましょう、物を食べてはいけませんよ、という具合に、乗っている人たちを正しい方向に導くような活動をしていました。けれども、誰もテレビなんか見ていませんね。
地下鉄二号線に乗り換えて40分ほどで、蛇口(じゃこう)の一角にある海上世界に着きました。海上世界というこの漢字の組み合わせに、何かすごいものが待っているという予感がしてドキドキします。駅を出て海側の方へ進むと、白い客船が見えてきました。「明華」と名乗っています。おや、作られた池のようなところに浮いていますね。と思いましたが、置かれていると言ったほうが正しいようです。船底が池の底にめり込んでいます。この船にある看板によると、鴻隆明華輪酒店というホテルだそうです。周りには、おしゃれなレストランやショップが並びます。ここだけ切り取って見ると、デズニーシーのレストラン街と言ってもいいのでしょうか。天気がよく、池の水に太陽の光がチラチラと反射しています。
その先の「女媧補天」という女神様の白い像の横をさらに進むと、海岸線に出ました。海岸沿いは遊歩道になっています。深圳湾パークガーデンとあります。岸の近くに、たくさんの小さな漁船がとまっていました。船上で作業をしている人がいます。遊歩道の脇に、「公園での守るべき15の規則」が書いてあることに気がつきました。危険なことをしてはいけません。草花を大切にしましょう。火を使ってはいけません。ここでも、ちゃんと人々を正しい方向を教えているのですね。ご苦労様です。おや?排便禁止とも書いてありました。なるほど、それはダメでしょう。そう言えば、ここまで来ましたがまだ蛇口(じゃぐち)を見かけていません。蛇口(じゃぐち)を求めて、街の方へ戻りました。
街をふらふらしていると、赤い星★を脇に付けた車がすっと寄ってきて、助手席の窓が開いたかと思うと、カーキ色の服を着た男がこちらに向かって何か言い始めました。普通語のようです。さっぱりわかりません。ぼやっとしていると、助手席の男は一度黙り、目線をゆっくりとこちらの顔から足元に落として、そしてそれを戻してきました。不審者を検分する目つきです。私が「言っていることがわからない」という身振りをすると、さらに何かを言いつつも、最後にはニヤッとしてもう行けという風に、ハエを追い払うような手つきをしました。警官だったのでしょうか。そう言えば、さっき横断歩道ではない場所で、道路を渡ってしまいました。すると、「交通ルールをきみ、きちんと守らねばよう」と言って、私を正しい方向に導いてくれたのでしょう。お巡りさん、どうもすいません。しかし、蛇口(じゃこう)では、実にいろいろと教えていただきます。
街の海側には40年ほどは経ったかと思われる薄汚れた低層のビルがあり、山側には何十階もありそうな新品の高層ビルがあって、太子路を境目に別れたような構造になっています。山側は建設ラッシュのようでもあり、工事中のビルがいくつもありました。景気が良いのでしょう。しかし、目的の蛇口(じゃぐち)はどこにも見当たりません。さてさて、蛇口(じゃこう)に蛇口(じゃぐち)は無いのか?少しあせってきました。工業一路、南海大道、兴华路などを、きょろきょろと確認しながら歩きます。ありません。無駄足だったのかと思ったときに、大きな看板に目がいきました。「时间就是金钱」。英語の併記があります。「Time is money」。そうなのです。やはりここでも、人々を正しい方向に導いているのでした。蛇口(じゃこう)で蛇口(じゃぐち)を探すなど、馬鹿げていることなのです。時間の無駄なのです。つまりは、お金をドブに捨てたようなものです。すいません、ホテルで本でも読んでいたほうが、どれほど有効に時間を使うことができたのか。
後悔しながら香港へ戻ろうと、地下鉄に乗ります。途中、反省しすぎた疲れからか、堅いシートに座ってうとうとしながら、福田口岸まで戻りました。深圳から香港を眺めてみようかと川岸までくると、あたりのいくつかのベンチに人が集まっていました。どうやら、トランプをやっているようです。完全にひまつぶしですね。それにしても、かなり熱が入っているようで、プレイヤーも見物客も真剣な目をしています。まあまあトランプですから。はて?プレイヤーの手元にはお金が置かれています。おお?どうやら賭けトランプですね。対戦者はもちろんのこと、周りの人たちも、参加しているのでしょう。トランプを見る目が、普通ではありませんので。ああダメです、いけません。だれか正しく指導をしてあげないと。突然、さっき見た「Time is money」が思い浮かびました。そうでした。別にひまを持て余しているのではなく、お金を稼いでいるのです。これだと思いました。時間を有効に使って、しかもお金まで手に入る。これが「Time is money」でなくて、他に何がそうなのでしょうか。ここにいる人たちは、導かれるがままに「Time is money」を実践しているのだとわかりました。そうなのです。正しい方に向かっている人たちなのだと理解しました。最後は、深圳の人たちに正しき道を教えてもらったのです。少し違うような気もしましたが、もう歩き疲れていたので、このような理解でよしとしました。
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