旅からおもう6
中国の人たちの心づかい・・・ – 中国・深圳の地下鉄の電車の中
私が中国の深圳で地下鉄に乗っていると、普通に席を譲られます。香港や東京では、まずそのような状況になったことはありません。これは礼を尽くすといっても過言ではないのでしょうか。まさに、社会秩序を保ち、人間関係を円滑に維持するとは、こういったことの積み重ねなのだと、あらためて思いました。
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旅からおもう6
香港の北にある深圳(しんせん)という街には、まだ新しい地下鉄が通っています。駅は汚れていないし、車内もとても清潔そうです。自動販売機で買うキップは紙ではなく、ICチップを埋め込んだプラスチック製のコインです。緑色をしていました。改札の横には警備員が座っていて、手荷物を検査しています。しっかりとしたセキュリティですね。交通渋滞なく移動できるとても便利なこの地下鉄には、いろいろな人たちが乗っています。
大声で話す人たちがいて、騒々しいのです。小学校の時に先生から、「電車の中では静かにしなさい」と、教えられたでしょう? 携帯電話でガーガーと会話する若者がいます。さっきの車内アナウンスは、「携帯電話での通話は、ご遠慮ください」と言っていたのでは? 当然、降りる人が優先といった道徳はなく、ドアが開くとみんながそこに集まり、ぐいぐいと押しあいになります。降りる人も乗る人も。みなさん、もう少し人生に余裕を持ちませんか? 人の顔をじーっと見るおじさんがいます。私の顔に、何かくっついていますでしょうか? つり革につかまっていると、前に座っているおかあさんが、抱いている赤ん坊に、不意に母乳をあげ始めます。何が起こっても驚かない歳には達していますが、目の前の光景はこれはこれで想定外の出来事ではあり、少し気持ちが揺れたことは認めます。おおっ、よろしいのですか? このようなオープンな場所でそのようなことをしてしまってですね…
このように、いろいろな事に遭遇する地下鉄の中で、日本や香港では普通ではないことが起きることがわかってきました。私に席を譲ってくれるのです。私はまだ現役で仕事をやっていて、それほどは歳を取っているとは自分では思っていませんが、髪の毛のほとんどが白くなっていることは事実です。これが、席を譲られる原因かと思われました。一方で、いわゆる先進地域の東京や香港などの街を走っている電車の中で、席を譲ってもらうことは決してありません。深圳では、それが一度や二度ではなく、電車に乗るとほぼ毎回譲っていただくのです。儒教では、年上を敬うことを教えているとききますが。そのためでしょうか、中国の人たちは、とても年配者 (私?) に親切のようです。
しかし、席を譲られ「どうもね、はいはい」といって、親切を受け入れるには、少し何かがどこかにひっかかります。さらにしかし、せっかくの好意を無にできません。では、どうすればよいのでしょうか? そうです、席を譲られないように、つまり声をかけられないようにすればいいのです。その対策を考えました。ちょうど滞在していた香港のホテルの部屋の中を、ぐるりと歩きながら考えました。白髪を黒くするのは面倒だし。「席にすわらなくても平気です」と書いた紙でも首からさげておくか。その瞬間、姿見に写った自分を見て気が付いたのです。背筋が伸びていません。前かがみになっています。肩甲骨が開きっぱなしの状況のようです。完全な猫背です。これが本当の歳より,老けて見えている原因だという結論になりました。
以後、深圳の地下鉄に乗ったときには、天井に頭が届くぐらいの勢いで背筋を伸ばし、きりっとした顔を周囲に示しつつ、額のシワを上下に伸ばすために頭頂の皮膚を後方へ押すように力を入れて、そして、腕を直角に曲げるようなかっこうで、つり革を持つようにしています。ただ、そこまで努力しても、なおも席を譲られます。であれば、白髪や猫背が原因ではなく、真の原因は他にありますね、おそらく。
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