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旅にひたる5

そして、誰もいなくなっていた… ベトナム ホアロー刑務所博物館

ベトナムの首都ハノイに、ホアロー(Hoa Lo)刑務所博物館があります。その一番奥の展示室には、今までその刑務所で使われてきたモノが、さりげなく置いてありました。実際に使われたものでした。そのモノの写真を撮る余裕など、まったくありませんでした...

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旅にひたる5

 ハノイのホアンキエム湖のそばに、ホアロー(Hoa Lo)刑務所博物館がありました。刑務所だった建物をそのまま利用して、関係のある展示を見せています。街を歩き回っているうちに偶然見つけたので寄ってみました。

 ホアロー刑務所は、1900年前後に植民地支配をしていたフランスによって建設され、当初は政治犯を収容していました。その後ベトナム戦争では、南の捕虜を入れることになり、米兵には「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれ恐れられていたそうです。1990年代まで使用されていたとのことです。

独房の扉

 観光ガイドであるロンリー・プラネットにも紹介されているためなのでしょうか、そこそこの数の観光客が訪れていました。展示は、収容されていた人たちの写真や、持ち物、洋服などが中心でした。首に木枠をはめられた人たちが並んでいる写真もあります。おそらく捕虜なのでしょう。事実を淡々と展示しているように見えます。さらに陰惨な目をおおいたくなるような写真もありました。戦争時代の捕虜たちの姿を見て、戦争はいけないのだと思います。さまざまな展示を見ながら、当事者たちの叫びが聞こえてくるような気がしました。

独房の中

 独房の一つの扉が開け放たれていました。幅はニメートル、奥行は五メートルぐらいでしょうか。背を伸ばしたら届きそうな高さに、鉄格子の窓が付いていました。あとは何もありません。窓から光は差し込むようですが、明るいのは房の上の部分だけのようです。入れられた人は、ここで何を考えていたのでしょう。死ととなり合わせの恐怖から、気が違ってくるかもしれません。今までやってきたことを、反省していたのかもしれません。床や壁に黒いシミが付いています。ひっかいたようなキズが走っています。白いシャツを着てひざを抱えて座り、上目づかいに大きな目でじっとこっちを見るやせこけた人が、房の隅にいるような気がしました。

ベトナムの道を走る荷物をたくさんくくり付けたバイク

 展示室は、小さな部屋に分かれていて、見学しながら奥へ進んでいくような構造になっています。見学している何組かの人たちを追い越して、どん詰まりの部屋にきました。体育館の半分ぐらいの大きさです。その真ん中には、ギロチンがありました。木でできています。始めて本物を見ました。人が寝そべる台があって、台の端には丸く穴があいた板がありました。首を通すところなのです。その先には家庭用の風呂ぐらいの大きさの桶がくっついていました。木で作られている桶にはあちこちに傷があり、相当使い込んだ様子がうかがえます。底が少し黒ずんでいます。見上げると、斜めに角度のついた刃がロープで吊られていました。三メートルの高さはあるでしょうか。シュルシュルという音をたてながら刃が落ちて、ガツッ・・・ ふと気が付くと、この部屋には自分しかいませんでした。この部屋に来る前の展示室には、見学する人が結構な数いたのに。部屋の中は、物音ひとつしません。桶の中をのぞき込んだときに、なぜそこに桶を置く必要があるのか、なぜ底のほうが黒くなっているのか,すべて理解してしまいました。まずい。これ以上ここにいると、どうかなってしまいそうな気がしました。早くここから出よう。急いで出口へ向かいましたが、思うように体が前に進まないのです。泳ぐようにふわふわといくつかの小部屋の展示室を抜けて、ようやく博物館の外へでました。一度深呼吸をします。前の道をゆるゆると二人乗りのバイクが通り過ぎていきました。走るバイクを見て、これほどほっとしたことは、これが初めてでした。

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