旅にひたる7
昔どこかで見た記憶のある村 … イギリス コッツウォルズ カースル・クーム
宿屋と料理店と教会があるだけの小さな村でした。静かで落ち着いた場所でした。初めて来たのですが、以前にも訪れていたような気がしました。それで、ひょいとその原因がわかりました。そうですそうです、この感じなんです。
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旅にひたる7
カースル・クーム(Castle Combe)は小さな村(village)で、コッツウォルズと言われるイングランド中部の丘陵地帯の中で、南の方に位置します。ロンドンの西にあって、ビッグベンの建つ中心部から、車で二時間ほどの距離にあります。いろいろな情報を合わせると、昔ながらの街並みが残っている、とてもきれいな村のようでした。
村はずれにある駐車場にレンタカーをおき、木に覆われて少し暗くなっているだらだら坂を下っていくと、視界が開けたところに村がありました。村の入り口の両側には二階建ての家が並び、どれも薄く黄色い石で組み上げられています。屋根に天窓が突き出ているのも見えます。坂道がそのまま村のメイン・ストリートになり、すぐ先は小さな三叉路になっています。その三叉路の真ん中には、石の積み木を三つほど重ねたような凸型の物体が、訪問する人たちを出迎えるかのように、どっしりと構えているのでした。
三叉路の一画に並んでいる二階建ての建物は、屋根まで石で作ってある宿屋のようです。一階はレストランになっていて、外には黒いテーブルと椅子が出してありますが、誰も座っていません。そのままメイン・ストリートの坂を下っていくと、村と外の世界との境目になっている小川が流れていました。小さな石の橋がかかっています。意外と早い水の流れの中、藻がゆらりゆらりと動いているのが見えます。4月も末なので少し暖かくなってきましたが、それでも外を歩く人はいないようです。
三叉路まで戻ると、横に小さなパン屋があることに気が付きました。店先にカゴを出して、フランスパンを切ったようなパンを入れて売っています。何となくのんびりとします。三叉路の横道に、教会がありました。小さいながらも清潔な感じがします。礼拝堂に入りますが、ここにも動くものの気配がありません。濃い赤や青色が多く使われているステンドグラスには、華々しい感じはなく、祭壇に向かって並ぶ席に落ち着いた光を送っています。なぜだか「ピッパシッ」という乾いた音が時折あたりに広がります。礼拝堂の裏のドアの外には、碑銘が描かれた墓石や傾いた十字架が点々と広がっていました。
教会から三叉路に戻ったところで、不意に「おや?ここはどこかで見たことのある村だな」と思いました。そう、ドラゴン・クエストというテレビゲームに登場する村に似ています。その村は緑に囲まれていて、基本的に宿屋と食べ物屋と教会から構成されていたのでした。そのイメージが目の前にあるのです。「おお、ドラクエの村に来ているのだ」と思った瞬間、なぜか目がうるうるしてきました。
少しの間「そうでうすね」と思いながら立っていると、時を合わせたようにボツボツと人がメイン・ストリートに出てきました。駐車場へ上がる坂の方へ、人の流れがゆるりと集まっていきます。ツアーの人たちでしょうか。そういえば、駐車場の奥に大型バスが一台あったような気がします。その人たちの会話が聞こえてきますが、あらま、日本語ではありませんか。日本人がここまで団体で… なにも、ドラクエの世界に・・・ ああ、このようなイギリスの田舎まで。みさなん、別に行く場所がたくさんあるのでしょう。バッキンガム宮殿やテムズ川などに、と聞こえるはずもない小さな声で意見しようとしました。ただ、私もイギリスのいい感じの田舎まで好んで来た日本人観光客の一人なのだと素早く考えなおし、みなさんが立ち去った後の静けさの中で、しばらくじっとしていました。
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