旅にひたる8
チャイナ・タウンにおける春節の準備状況 … フィリピン メトロマニラ
「チャイナ・タウン」では、中国の旧正月にあたる春節を盛大に祝うために、住んでいる人たちがその日に向けていろいろと準備をして、街の中はなんとなく浮かれた空気に包まれます。そこで、マニラのチャイナ・タウンへ行って、実際の様子を確認しました。
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旅にひたる8
今年も春節と言われる旧暦の正月が近づいてきます。香港、シンガポールやイギリスのチャイナ・タウンで、たまたま春節の騒ぎを目撃してきました。新聞によると、ここマニラのチャイナ・タウンでも、相当の騒ぎのようです。そんなチャイナ・タウンに、旧元日が迫る旧師走のあわただしい中、その準備状況を視察に出かけました。
チャイナ・タウンはLRTのカリエド(Carriedo)駅で降りて、そこから少し歩いた場所にあります。観光地で有名なイントラムロス(Intramuros)に近い場所です。調べたところ、アジアでは一番古いチャイナ・タウンのようで、1594年にできたらしいことがわかりました。当時の総督が、フィリピンに渡ってきた中国の人たちのためにこのあたりを定住の地として決めたのが、その始まりだと理解しました。イントラムロスも1600年代初頭に完成しているようなので、この一帯は400年ほど前に開発されたことになります。
カリエド駅から街に出ると、バイクにサイドカーを付けたトライシクルの、客待ち風の白髪頭のおじさんが、こちらをじっと見ていることに気づきました。鋭い目線です。「はい、声をかけられても、乗りませんよ」 交差点で信号待ちしていると、3歳ぐらいの男の子が手を差し出してきました。裸足です。少し心が揺れましたが、「無いですよ」という風に手を振ると、その子は歩道に沿って歩いて去りました。フィリピンの知人が以前、「ああいったことは、親がやらせているんだ。しょうもない親だ」と言っていたことを思い出します。
両側にこま犬のような石像を伴った親善門と書いてある大きな門をくぐって、メイン・ストリートのオンピン(Ongpin)ストリートにやってきました。一方通行の道を、自動車が途切れることなく、のろのろと通っています。ここにトライシクルや馬車も加わり、時おりクラクションも重なって、さらに縦列駐車がすき間なく続き、果物などを売る露店が車道にせり出して、全体でごったな感じを作り出しています。頭上には、電線なのか電話線なのかが、とにかく鳥の巣のような団子状になって、所によっては線が垂れ下がっています。ベトナムのハノイでは、バイクに乗った人がこういう車道に垂れ下がった線に引っかかり、不幸な事故が起きるのだと聞いた記憶があります。ここではそのような事はないのでしょうか。4階か5階か歩道側に突き出したクーラーの底から、容赦なくぼちゃぼちゃと水滴が落ちてきています。
さて春節は?とオンピン・ストリートを見回すと、「恭喜发财」という文字がありました。旧正月を迎えるときの言葉です。電線に引っ掛けたような看板に書いてありました。これは期待できそうです。街を挙げて新年を迎える気持ちが感じられますね。とは言っても、看板は交差点の上に数枚あるだけです。少し進むと、ありました。「福」と書いた真っ赤な飾り物を歩道に出して売っている店です。これは正月の準備に欠かせない飾り物です。
サラザール (Sarazar) 通りに入ると、真っ赤な正月飾りと大人の腰の高さほどのキンカンの鉢植えが店先に並んでいました。そうそう、こうでなくちゃ。キンカンは、春節につきものですね。このキンカンで金運が上がると聞いたことがあります。そして、その後に一度「恭喜發財」という文字をどこかの店先で見かけたきり、オンピン・ストリートを抜けてビノンド教会 (Binondo Church) まで出てしまいました。何か物足りないし、みんなで旧正月に向けて頑張るぞといった感じがありません。小さめのシンバルを両手に持ってシャンシャン鳴らし、それにかぶさるように太鼓がドンドコドンと鳴る、例の音楽も聞こえません。チャイナ・タウンでは、旧正月に向けて日々気分を上げていくところを目前にするのだと思っていました。どうしましょう。気持ちが落ちてきます。足元を、白っぽい野良犬がすっと通り過ぎていきました。
そうでした、近くにラッキー・チャイナ・タウンがあることを思い出しました。そこそこの規模のショッピング・センターです。そこなら全店あげて旧正月へと盛り上がっているはずです。
はたして干支の大きな飾り物がありました。さすがラッキー・チャイナ・タウン。おそらく、飾り物の中には電球が仕掛けてあって、夜になるとぼわっと光るようになっているのでしょう。上には、赤、青、紫、緑とオレンジ色のちょうちんがぶら下がっています。気分がいくぶん上がったところでショッピング・センターの中に入ると、そこはまったく日常の世界です。そんなはずはないと思い、センター内を巡回します。どうにか「吉祥」という文字を見つけました。しかし、それきりです。他に旧正月のにおいを出しているものはありません。
あきらめて帰りかけたとき、通路の真ん中で重ねられた赤い箱に入ったもちのようなものを売っているのに目が留まりました。白、赤、黄、緑、黒のそれぞれのバージョンがあります。ビニールに包まれたそれを指でつついてみると、ぷにっと柔らかい触感でした。もちのようです。売り場のお姉さんに、これは何であるかと聞いてみます。すると、やはりもちでした。TIKOYというらしい。色は中に練り込んである材料ごとに違って、「白には砂糖、黒には黒砂糖、赤にはイチゴ、黄色にはパイナップルで、そして緑にはボコパダが入っているのよ」と親切に教えてくれました。そして、これは旧正月に食べるものだとも教えてくれました。では、黄色バージョンを一枚調達しましょう。
視察を終え少しだけ旧正月気分になって、オンピン・ストリートをLRTの駅の方へ戻っているとき、昼に麺を食べた店の前を通りました。店先で麺を練って伸ばして丸めて。店員さんはお揃いの赤いサン・バイザーと、背中に店の名前を入れたこれも赤いTシャツを着て、なかなかいい雰囲気でした。ただ、さっきここで牛肉刀削面を食べていたとき、出し抜けに横から大声で怒鳴りつけてきた正体不詳のじじいが一人いたことを思い出しました。いきなりです。理由などは見当たりません。思い出して腹が立ってきましたが、彼にはもうすでにそれなりの正しく恐ろしい天罰が下っているはずだと気を取り直すと、牛肉刀削面のさっぱりとした味がよみがえってきました。
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