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旅にひたる11 [NEW]

すいません、マビニ公園へ行きたいのですが … フィリピン バタンガス州

フィリピンのマニラの南にある、バタンガスという町へ行こうとしました。しかし、ちょっとした間違いから、山間のちいさな町にたどり着き、そこをぐるぐる歩きました。まったく下調べもなく、こういった出たとこ勝負のすきま旅が、ここのところ多くなってきた感があります。

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旅にひたる

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旅にひたる11

 フィリピンの首都マニラの南に、バダンガス (Batangas) という町があります。そこは、マビニ公園 (Plaza Mabini) と 16 世紀に作られた教会と市場がある町のようなので、仕事が休みの明日の日曜日に行ってみることにしました。

 マニラの LRT1 のジル・プヤット (Gil Puyat) 駅で降り、ジャム・ライナー (Jam Liner) のバス・ターミナルで、バタンガスのバス・ターミナル (Batangas Grand Terminal) 行きのバスに乗車し着席します。さっそく、物売りのおばさんたちが乗り込んできて、リンゴ、みかん、ぶどう、スナック菓子、水などの売り込みが始まりました。おやおや、乗車している方たち、誰も興味がありませんか。それで、すいません、今は私もいりません。

Batangus Bus Terminal

 バスのフロント・ガラスの上にある小さめのテレビでは映画をやっていて、まだ出発もしていない車内にガンガン音を流しています... ようやく、バスが発車しました。間もなくキップ売りのおじさんの、パチパチとキップに穴を開ける音が、映画の音声の裏側に聞こえてきました。それからバスは、湖畔、コブを背中に持つ牛の放牧地帯や、遠くにすっとした山を望みながら、テレビ音をバンバンと送りつつ、ほいほいと快調に走ってバタンガスのターミナルに到着しました。街中ではなく、少し外れた場所です。さて、ここでジプニーに乗り換えて、バタンガスの町まで10分ほどです。バタンガスには、マビニ公園 (Plaza Mabini) が真ん中にあるので、ここを目印にします。公園は町の中心なので、ジプニーがそこに立ち寄って当然ですね。バス・ターミナルの横にはだいたい全体的に銀色のジプニーが 7台ほど顔をこちらに向けていて、その前面には、行先を大きな声で案内する少女がいます。

 ジプニーのフロントには行き先の札があって、そのうちの “MABINI” と書いてある車の運転手に 「Mabini park」 というと、早く乗れという風に左の手首をくるくる回します。手前にはかわいいお姉さんが座っていたので、運転手にくっつくような体勢になる前面のベンチシートの真ん中の席に、遠慮しながら座りました。もちろん前方がよく見えます。そして動いて、渋滞を抜けジプニーがバババっと勢いをつけて走り出すと、風が下からまくし上げるように入ってきます。うははは、快適ですね。目線を下すと、目の前にあるスピード・メーターなど、ジプニーが装着しているすべてのメーターは、どれもが描いたようにまったく動いていませんでした。そうでしたか。でも、燃料メーターはきちんと動作させたほうがいいと思いますけど。

走行中まったく動かないジプニーのメーター類

 さて、10分ほど走りましたが、まだ街中のようです。さっき少々渋滞があったので、まだもう少し時間がかかるのでしょう、公園までは。そうこうしているうちに、町を抜けたようです。周りには、木々が目立ち始めました。そしてお決まりのように雨が降り出し、さらにバケツをひっくり返したと言っていいほどになってきました。四方から入ってくる雨音がすごい。右側ががけで左側に点々と家のあるゆるやかな坂道をさっさと上がるジプニーは、路面にたまっている水をガシバシと左右にぶっ飛ばして、まったく平気な風に突っ走ります。右となりに座っているかわいいおねえさんは、ジプニーの窓の代わりに取り付けられている透明なビニール・シートを体に巻き付けて、吹き込む雨水から身を守っています。すでに乗車してから 30 分以上経過しました。う~ん、どうやらこれはまったく違うジプニーに乗ってしまいましたね、おそらくマビニ公園には行きません。とにかく、終点まで行って、同じ路線で引き返すほうがよさそうです。小雨になった山道を、しばらくジプニーは走ります。途中で乗客がだいぶ降りたころ、なんとなく平地になって、道路の両側に白っぽい四角い家が見え始めました。となりのかわいいお姉さんは、とっくに車を降りてます。

ようこそマビニへ

 ジプニーはスピードを落としてよろよろと走り、くくっと止まりました。野球帽をかぶった運転手がこっちを見て、「Plaza Mabini」 と言いながら、あごで左側を指しました。はい? では下車です。なるほど、確かに公園があります。Plaza Mabini と書いてあります。ここがバタンガスの町、中心にあるマビニ公園ですか? 裏に山が迫っていますよ。町の活気としては、はて、こんなもの? 目の前は街道沿いの町という感じになっていますが、ここは。おや? 道の横に教会があります。確かバタンガスにもそばに教会があったはず。では、ここなの? 違うでしょ、十中八九... スマホの地図で場所を確認すると、まったく別の場所にいるのだとわかりました。ここは、マビニという町らしい。なんと、バタンガスとは湾をはさんで左下、突き出た半島の山の中腹です。ジプニーが1 時間も走行するわけですね。ありゃま。

 とりあえずもう昼時なので、MABINI’S BAKERYというパン屋で、砂糖がたっぷりとまぶしてある少し大き目のドーナッツを一個調達して、「う~ん、こんなところまで来たか」 と言いながら、それを食べました。温かくなったミネラルウォーターを飲みつつ。それはそれで、とても普通にうまかったです。

Plaza Mabini の Mabini さん?

 町を探ることにします。マビニ公園の真ん中には、マビニさんなのでしょうか、頭のよさそうな細身の男の人の黒っぽい銅像があります。公園のことを説明しているだろうプレートは、タガログ語で書かれているらしく、まったく解せません。交差点にBatangas Mabini という看板があります。おや、市庁舎・警察署はコチラ、という英語の道路標識もあります。だから、ここが町の中心であることは、まず間違いないでしょう。公園の横の教会は、とてもきれいに掃除されていました。中にはだれもいません。天窓の位置にあるステンド・グラスが、礼拝堂の中に、ほかほかと光を届けます。礼拝堂の外の横には、井戸がありました。そして、教会から少し離れた所には、かなり小さめの消防署があって、大型の消防車が一台だけ置いてあります。これだけでほぼガレージがいっぱい。また、ちょっと高台にあるクリーム色をした清潔そうな小さな市庁舎は、とびらがきちんと閉まっていて、まったく人気がありません。町の真ん中を通っている通りには、ジプニー、バイク、乗用車、トライシクル、軽トラック、のら犬が行き交います。時々、マフラーを改造してあるだろうジプニーから放出された、ズババババッというやかましい排気音が、一つずつガッガッと体に直接当たってきます。突然、ボロを着ているやせた男が、金をくれと手を突き出してきました。

マビニ町の市場の八百屋

 市場があるので、冷やかします。中は暗くて、湿っぽい空気が固まっています。肉屋、八百屋、米屋、魚屋、床屋、雑貨屋、洋服屋などがあって、オレンジ色のレジ袋をさげた人々が、店の間を行き来していますね。足元がぬるぬるめで、何か危険な滑り具合です。不意に、市場の全部の店がそれぞれに放出する勝手な、少し時間が経ったような臭いがぐしゃあと混ざり合って、ぐっと鼻を抜けていきました。ふぅ、テレビの食レポで「複雑な香りが合わさって」 とよく聞きますが、このことですね? 小学生ぐらいの女の子が店番をしている文房具屋で、ペンを一本調達します。メモを書いていたペンをどこかで落としてしまったようで、さっきからメモがとれなかったのです。外へ出ようとすると、店の前を、赤んぼうを大切そうに抱いた裸足のすらっと背の高いやせた女の人が、ふわわっと右から左へ通っていきました。

マビニ町の目抜き通り(左側のビルが町で一番高い建物かもしれない)

 町の雰囲気も感じたことだし、そろそろバタンガスのバス・ターミナルへ戻ることにします。目の前にジプニーはたくさん走っています。どれかに乗ればいいのでしょう。ツブが大き目の雨が、パンパンと降ってきたので、通りにある雑貨店の軒先に避難します。温度が高めの湿気が、体にからみついてきました。さて、目の前を通り過ぎるジプニーのフロント・ガラスにある行先の表示に、バス・ターミナルという文字が見当たりません。20 台ほどやり過ごしましたが、しかし、そのような表示はありません。軒先を借りている雑貨店の人に聞いてみます、「Batangas bus terminal?」 と。店の若いだろう女の人は、さよならをする感じで手を振って 「No」 とだけ言いました。NO? あれれ? でも折り返し便があるでしょう。始発点に向けての。ジプニーが客待ちしている場所に行って、運転手に 「Batangas bus terminal?」 と再び聞いてみますが、 「No」 とだけの返事です。おやま、これは困った。さっきのボロを着た男が、金をくれと言ってまた寄って来ました。

 う~ん、帰れないのか? 別の客待ちジプニーの運転手に聞いたら 「Today No、 diversion」 と言ってきました。「だいばぁじょん」、迂回か? なんと。少し困り顔をしていたら、別のジプニー運転手が、おいでおいでをしてきました。行って聞いてみると、途中で乗り換えろと言っている様です。ジプニーの乗り換え? 少々ハイレベルな度胸が試されそうです。とはいうものの、他に手段がなさそうなので、そのジプニーに乗車しました。

かっこいいジプニーのツラ(ベンツのマークと ISUZU の文字があって、どっちなのか白黒つけてほしい)

 また 1 時間ほどガタギシガシという音を聞きながら疾走し、それから運転手に 「ここだ」 と言われた場所で降りました。高速道路のような高架橋の下です。はて、自分はどこにいるのでしょう。これからどのジプニーに乗り換えればいいのか。幸い、目の前にバス会社らしいデポがあり、制服を着た二人のお兄さんが、水の入った大き目の青いポリバケツをはさんで座り、笑いながら話をしています。「マニラ、バス・ターミナル」 と聞いてみると、反対車線にあるジプニー停車場から乗れ、と教えてくれました。渋滞の中で車たちが絶え間なくクッククと加減速しながらノロノロ動いている片側三車線の道路を、本当になんとか渡り切り、ジプニー停車場にいる案内係らしいお兄さんに聞きます。濃いめの黄色っぽいチェックのターバンを巻いて、真っ黒なサングラスをかけた身長おおよそ 150 センチメートルのお兄さんです。大粒の雨がバラバラと落ちてきました。その瞬間、お兄さんはきょろきょろしてから走り出し、そしてこれだという風に一台のジプニーのケツを、バンババンとたたきました。お兄さん、ありがとうございます。そして、バスのデポからこっちをじっと見ている、さっき会話したあの制服のお兄さん二人に手を振って、急いで車に乗り込みます。

品数は豊富な昼飯のドーナッツを買ったパン屋

 シャバシャバとタイヤが水をはね、テンパンテテンと車の天井に大き目だろう雨粒が当たる連続音を聞き、急発進と急ブレーキにその都度体を左右にもっていかれながら 15 分ほど走って、バタンガスのバス・ターミナルへ戻り着きました。ここですよ。やれやれ、これで何とかマニラへ帰ることができそうです、はぁ、相当気疲れしました。しかし、普段は行こうという気にもならないし、その存在も気にしないマビニという町に行くことができたことは、ちょっとラッキーだったのではと思っています。

「マビニ ファイヤー ステーション」と書いてある消防車の横顔

 そして、今までは、「バスに乗って終点まで行き、そして折り返し便に乗れば、また元の場所に戻れるよね。ねえ、だってそうでしょ?」 と安易に理解していましたが、その限りではないことが、ここではっきりとわかりました。「今回は、親切なフィリピンの人たちに助けていただきました。ただ、どこでもいつもそうであるわけではないので、よくよく調べてから行動ですよね、はいはい」 と考えましたが、おそらくまたこの先、同じような失敗をして、同じように反省することになろう確率が、おおよそ80% 以上のような気がしています。

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